娼婦たちの憂鬱
新幹線に乗っていてすこぶる気持ちのよい場所がある。
新横浜をすぎていよいよ東京が近づいてくる。
多摩川にさしかかる手前で横須賀線が並走しはじめると、新幹線は次第にスピードを落とし、さながら着陸前の飛行機のようなゆったりとした動きに変わる。
この区間あたりから新幹線の線路は大きく右に左に蛇行しはじめる。
ぼくがすきなのはこのあたりからだ。
窓から見る景色は、実に東京だ。大地の凹凸をそのままに、家がびっしり並ぶ。大きなビルが無く、見晴らしがとても良い。新幹線は高架を走っているため、高いところから景色を眺めることになるので遠くまで見通すことができる。まさに飛行機に乗っているような感覚だ。
そして、新幹線は品川区に入る。
東急大井町線を真下にみて交差し、進行方向右手にソニーを見、そして三共研究所の四角い建物が見え始めると、新幹線は大きく右に傾き、線路のカーブに従って急旋回していく。
右旋回が終わり、左手に山手線が現れるとこんどは山手線に沿って左に急旋回していく。
この間、ほんの数十秒だが、新幹線は右、左と大きく揺れ、車体そのものが浮遊間に包まれる。ゆったりとした動きは命あるもののようだ。
大きなザトウクジラが海に潜航する直前に体をくねらせるような、空飛ぶ龍が獲物を狙って方向を定めようとしているかのような。
ともあれ、ぼくは実に気に入っている。とても気持ちがいい場所なのだ。
今日もウォークマンを聞きながらこの場所に来た。ちょうどマイルスの「ビッチェズブルー」を聞いていた。その音がこの風景にとてもよく合うことが判った。
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